この一年突然、読書という趣味に目覚め、かなりの数のミステリー小説を読んだ。
その中から、最も面白かった一冊を紹介したい。
正直言うと、この記事を読む前に、ぜひ実際にその本を手に取って読んで欲しい。
そのためこの先、ネタバレになる部分は事前に警告する。
2021年ベストオブ俺が読んだ本受賞作品は
審査委員一同(俺)文句なしの満票受賞となった。
推理小説作家の香月史郎は、とある事件で警察に協力した際、類まれなる推理力を発揮し事件を解決に導いた実績がある。そんな香月は、霊障に悩まされている知人への付き添いで、霊媒師の城塚翡翠と出会うことになる。その後香月と城塚は、いくつかの事件に巻き込まれる。城塚はその霊媒の力をもって、死者の声を伝えることができるが、それ自体は証拠能力を持たないため、香月が霊媒の結果を基に推理し、物理的な証拠を見つけ出して事件を解決していく。二人は事件を通じて、徐々にその距離を縮めて行く。だが、その影では非道な連続殺人が行われていた。そして二人はその事件にも否応なく巻き込まれていくのだった。あと、城塚がかわいい。
ミステリーにおけるタブーと言っても過言ではない「超能力」を軸としたミステリー小説である。
私も読み始めは、いやそれはあかんやろwだった。だが、読み進める内に、城塚の霊媒能力に引き込まれ、いつまにかそれを受け入れていた。
霊媒によって最初から犯人が分かっていることが、思ったよりもミステリー小説としての構造を崩壊させていなかった。いわゆる倒叙形式と考えればいい。犯人を主軸に物語が進み、探偵がそのトリックや証拠を見つけ出していく、「古畑任三郎」や「刑事コロンボ」もその形式と言える。
それを頼りがいがありそうで無さそうな香月が紐解いていくわけだが、その過程に読みごたえがあった。あと、城塚がかわいい。
挿絵こそないものの、重すぎない文体も読みやすさを加速していた。いくつかの事件はそれぞれの章に分かれており、一気に読み下さなくてもいい点もミステリー入口として合っているかもしれないが、個人的にはミステリー初心者が最初に読む作品としてはオススメしない。なぜなら、「霊媒」だから。できれば、何作か本格ミステリーと言われる作品を読んでから触れて欲しい。その方が「霊媒」への違和感が徐々に消えていく感覚を味わうことができる。あと、城塚がまじでかわいい。
※※※この先ネタバレあり※※※
この先は、物語の核心に触れるネタバレ表現を含みます。
ネタバレされたくない方はブラウザの「戻る」にてお帰りください。
この先、ネタバレあります。
いや、ほんとにネタバレするからね?
いやまじで、読んだ方がいいって。
ほんと読もう?
仕方ないなあ…でもまじで読んだ方がいいよ。
これが最後の警告です。この先には重大なネタバレを含みます。
公式HPを開くと、真っ先に目に飛び込んでくる「全てが、伏線」のキャッチフレーズ。
軽めな文体。
世間知らずでおっちょこちょいで、不思議な能力を持った美少女。やれやれ系主人公。
表紙のかわいらしい少女のイラスト。同じイラストの栞。
章間に入る、黒い扉。その黒が作る、小口への黒い線。
文章や登場人物だけではなく、読むたびに目に入るそれらのイラストや黒い線が、この作品が「ライト」なミステリーであると読者を油断させた。気づけば読者は霊媒というタブーも「ライト」ミステリーだしまあいいか、と思い込まされてしまうのだ。
そして、最終章で、明かされる衝撃の真実。
城塚翡翠には、霊媒能力などなかった。
彼女は、人智を超えた推理力をもって、一瞬にして犯人を導き出していたのだ。
そして、彼女は、香月史郎が単なる推理小説家ではないと推測し、彼を監視するために行動を共にしていた。香月史郎は、世間を騒がせている、連続殺人犯だったのだ。
城塚翡翠は、いかにして犯人を特定したのかを語る。
自分が証拠を見つけ出して城塚翡翠の霊媒を、物理的な証拠に繋げたと思い込んでいた香月史郎を最終章で城塚翡翠がボコボコに論破していく。
と、同時に、いやいや霊媒ってwwwwと思っていた読者もボコボコにされていくのだ。
ミステリー5冠は伊達じゃなかった。
本当に「全てが、伏線」だった。